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ヘアメイクデザイナーからいちご農家へ転身。「空浮いちご」を届ける大山隆さん

大山 隆 さん:東かがわ市在住・2010年移住・30代

ヘアメイクデザイナーからいちご農家へ転身。「空浮いちご」を届ける大山隆さん

ヘアメイクデザイナーから農家へ

 20代は東京でヘアメイクデザイナーとして朝から晩まで働いていました。有名なミュージシャンのツアーに同行したりして、一通り仕事させてもらいました。なぜ、農家に転身したかといえば、「28歳転機説」というのが自分の中にあって。30歳になってもこのままヘアメイクデザイナーとしてやっていくのか・・・?と。
 あの頃の自分を思い返すと、20代は得る事や拡大する事ばかり考えていましたね。東京というのは欲が多い街で、欲しいものにきりがないのです。東京で手に入れた幸せを、捨てていくことで得る幸せがあるのではないかと思いました。
 なぜ農業を選んだかというと、農業が一番成熟していない業界だと思ったからです。30歳からでも勝負できる。現在の日本で農業を担っている方の平均年齢は65~70歳で、この年齢層がライバル。だとしたら、若くて体が動く自分が負けるわけがない、経験がない分、汗を流せばいいと思いました。ヘアメイクデザイナーとして東京にいる頃から全国のいろんな農家を廻って、おいしいものを作っている農家の共通点を理解しました。最初から地元へのUターンを考えていたわけではなく、いろいろな土地を見てまわったんですが、各都道府県の農家さんに農業するのに香川はどうか、というのを聞いたところ、香川は農業に最適だし、阪神の商業圏も近いし、香川はいいよ、という意見をたくさんもらって、地元の香川で農業をやっていこうと決めました。
 それで、30歳の冬に、東京で得たものを全部捨てて香川に帰りました。

「空浮いちご」ができるまで

 いちごを選んだ理由は、香川県で有利なものを考えた結果です。他の野菜よりも嗜好品であるいちごがパッケージやロゴのデザイン、おしゃれな選果場など、自分が培ってきたバックグラウンドが活かせると思ったからです。
 香川に帰ってきて、最初はいちごを育てるためのハウスを1人で建てるところから始めました。農業は体力勝負。ハウスを1人で建てることができれば、いちご栽培はできるはず、と自分自身の精神力と体力をつける課題として1人で建てました。ハウスは辞める人のものをもらって移築しました。今はハウスを壊すにもお金がかかるので、運よくもらうことができました。「時代の幸」ですね。そういうケースは、沢山あります。
 そして、たまたま募集があった香川県のJAの研修制度を利用して、いちご農家で10ヶ月程、勉強しました。研修制度がなくても自分でやっていくつもりでしたが、研修を受けた方が認定就農者として日本政策金融公庫からお金が借りやすいというのもあります。
農業は「知識・知恵・こつこつやる」のが大事。シンプルなだけにつきつめようと思うと難しいです。
 ヘアメイク時代においしいものをたくさん食べてきたので、おいしいかどうかは自分の舌でわかります。自分で作ったいちごを食べて、「おいしいのができた、これはいける!」と思えました。始めた頃は今とは違って、狭い道の奥に小さい選果場がありました。来づらい場所でしたが、近所の人をはじめ、たくさんの人がわざわざ買いにきてくれた。看板を出してないのに買いにきてくれるんですよ。宣伝、広告、営業はしていません。こつこつやることが一番の近道です。小手先のことはせずに、本分をしっかりやっています。今年よりも来年、来年よりも再来年、おいしいいちごを作りたいと思っています。

結婚と子育て

 東京にいる頃は結婚できるのかなと思っていたんですが、香川に帰ってきて、毎日毎日真面目に働いてると、その姿を近所の人が見ていて「うちの娘を嫁にどうや」と縁談がいくつも来るんですよ。都会ではない話ですよね。ありがたい話ですが、3年間は家と畑と出荷場の繰り返しで、いちごのことばっかりしていました。3年目、ある程度結果が出て、結婚したいなと思った時に、先輩を介して紹介してもらったのが今の奥さんです。34歳までのんびりしていたし、お互い自立していたので、お互いに自己責任だね、ということで5月末に出逢って10月には入籍しました。
 

 結婚して2年半は高松市から東かがわ市まで通勤していましたが、結構距離があるので、ちょっと畑を見に行きたい、というのに都合が悪いというのもありましたし、今年の2月に子供が生まれたこともあって、ハウスや選果場のある東かがわ市に家を建てました。
 今の暮らしは15~16時には家に帰ることができるので、こどもをお風呂に入れたり、家族でごはんを食べることができますし、子供と一緒にいれる時間が長いのがいいですね。

これから

 いちごを作りはじめて6年目を過ぎて、社員もスタッフも増えました。今は現場は社員たちに任せて社長業に励んでいます。いちごより人を育てる方が難しいですね。空浮ではパートさんが7名います。みんな夫婦仲が良くて、BBQをすると一緒に遊びに来てくれます。そういうのが宝だと思っています。人生は思い出づくり。家族がいて、スタッフがいて、楽しい時間を過ごしている、心穏やかに過ごせる今のこの状況がずっと続けばいいなと思います。
 農地もどんどん拡大していて、今の面積で充分食べていけます。それで、次は何をしようかと、スタッフが集まって毎年いろんなチャレンジを考えています。そろそろ全国に向けて自分たちで売る努力をしていきます。「空浮いちご」という自信がある商品を自分たちで直接お客さまに届けていきたいのです。